「すべての子どもたちを平等なスタートラインに」

途上国教育専門家・井本直歩子

中学生の頃から日本代表として海外遠征に行っている際に、自分たちと同じレースをする途上国からの選手たちとの差に気づきました。

私たちは水着やジャージをたくさん支給されているのに、ゴーグルさえない選手。

レース前に食堂で、栄養を気にせずお菓子をたくさん食べて喜んでいる途上国の選手たちを見ました。

紛争をしている国から出場している選手たちを見て、どんな環境でトレーニングをしてきたんだろうと思っていました。

そしていつからか、競技引退後の将来は、恵まれない国の人々のために働きたいと思うようになりました。

活動内容 駆け出しの頃

まずは英語を勉強し、大学や大学院で国際関係論や紛争論を学び、アフリカでインターンを始めました。

ガーナで国際協力機構(JICA)のインターンをしたあと、平和構築に関わりたいと思い、JICAの企画調査員というポストをいただいて、内戦後のシエラレオネ、ルワンダで平和構築のためのプロジェクト形成を行いました。

そうしているうちに、緊急支援の第一線で仕事がしたいと思うようになり、そのために国連で働きたいと思うようになりました。

国連で働くために、修士号と現場経験があれば受けられる外務省の「ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー」という制度に応募し、書類審査と面接試験に合格して、ユニセフのスリランカ事務所で教育支援を行うポストに配属されました。

それからはどんどん教育分野のおもしろさにのめり込んでいきました。

ユニセフでの活動内容

国連のポストは大体2−3年くらいで満了になるので、活動拠点は次々と移っていきました。

スリランカではインド洋津波からの再建、そして北部の紛争中の教育支援をしました。

ハイチでは20万人以上もの死者が出た2010年の大地震の後、緊急支援のコーディネーションのデータ情報管理や、学校の再建や教員の研修などを支援しました。

その後2013年のヨランダ台風で多くの死者が出たフィリピンで、多くの教育分野のアクターを束ねるコーディネーター役を担いました。

その後配属になった西アフリカのマリでは、今も内戦が続いていますが、内戦で学校に行けなくなった子どもたちが短期間で追いつけるための「加速学習」を実施したり、マリ教育省と一緒に平和教育のための教科書を作ったりしました。

そしてギリシャでは、シリアやアフガニスタンからの難民が学校に通えるよう、ギリシャの教育省に働きかけ、難民キャンプでノンフォーマル教育を実施しました。コロナ禍になり、オンラインやリモートでの授業もあの手この手で実践しました。

すべての子どもが教育を得られるように

紛争であれ、自然災害であれ、学校に行っていない期間が長くなればなるほど、その子どもたちが学校に戻れる確率は低くなります。

子どもたちが学校に通えないと、その子どもたちやその社会の未来は明るくなりません。

今はユニセフを休職していますが、これからも多くの子どもたちが学校に通うために、彼ら・彼女らが明るい未来を創造できるように、支援を続けていきたいと思います。

そして、これまでの経験を活かして、日本のスポーツ界で社会貢献がより広まるように、お手伝いしていきたいと思っています。

井本直歩子 Naoko Imoto

元競泳選手。1996年アトランタ五輪4x200mリレー4位入賞。米国留学を経て、現役引退後、英マンチェスター大大学院貧困・紛争・復興コース修了。2003年より国際協力機構 (JICA)、2007年より国連児童基金 (ユニセフ) のスタッフとしてシエラレオネ、ルワンダ、マリ、ハイチ等、世界各地の発展途上国で平和構築、教育支援に従事。2021年にユニセフを休職し、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会ジェンダー平等推進チームアドバイザーに就任。一般社団法人SDGs in Sports代表。モザンビーク在住。

twitter